佐野研二郎さんエンブレム騒動に思うこと

この件に関しては何故か興味をもち、ほぼ毎日検索したり色々漁ってフレッシュニュースを追う、というぐらい興味をもってたんですよね。

それが、「人間として耐えられない限界状態」として佐野さん自らがエンブレム撤回を申し出たという、一応のピリオド(じゃない気もするけど)を迎えたので色々考えたことを書きたいと思います。

www.sankei.com

 

興味をもったきっかけは、幾つかありました。エンブレム騒動が始まった頃に、「これもパクリみたいなもん」と言われた画像があったんですけど。

f:id:mayachang:20150902122405j:plain

via http://geeksokuhou.net/archives/45925541.html

これの、auLISMOについては、本当に発表された当時から「ただのAppleの劣化版じゃん。え、こういうのオマージュとかいうのかな?アリなのかな?」と思っていたから、「あれを作った人かあ....」と思ったのは大きかった。「あれに感じた違和感を、今回大舞台で注目されるから、みんなが感じたって感じかなあ」と思って。

 

続いて、次の二者のネット調査隊による調査結果が興味を引きました。

森本千絵さんと高嶋りかこさんの件です。

森本千絵さんは、博報堂の後輩として少し佐野さんをSNSで擁護しただけではあるのだが、ネット捜査班の調査の手はおよび、言及されたのがユーミンのアルバムキャンペーンに使われた以下の作品でした。

f:id:mayachang:20150902123110p:plain

via http://francepresent.com/morimototie/

↑ここに詳細が掲載されているので、ご興味あれば見て欲しいんですけど、私はたまたまこのニュースが出る数日前に、吉本ばななさんと森本千絵さんの対談番組を見てたんですね。

www.cinra.net

そんで、その時森本さんの作品にまつわること、姿勢、仕事の仕方、色々見ていて、創造性があふれるような人だし、さすがに博報堂で第一線でやってた・引いては美大出身者として博報堂に入れてしまうからにはその以前から、本当に才能と押し出しにあふれる人なんだなあとおもったものだった。

あと一緒にテレビを見てた同居人が武蔵野美術大学で森本さんと同期だったらしく「その当時から大学でも話題の天才だった」とも言ってました。

ともあれ、そのことが別にあってもなくても、この森本さんの「パクリ疑惑」をみると普通の「素材利用」か、「インスパイア」でしかないし、許可とってるなら普通のことじゃん素材使うのって。と思いました。

連座、という言葉が頭に浮かびました。

ちょっと擁護したらここまでやられるの怖すぎる、とも思いました。

ただ、テレビ見てたときチラリと胸を掠めた「嫉妬」のような感情は、割と佐野さん問題の一部を読むとくヒントになる気がします。(後述します)

 

じゃあ次に、長嶋りかこさん作品なのですが、かのbjorkのビデオとかcdのクリエイティブと、長嶋さんが手がけたcharaのcdジャケットの比較....

一応bjork(ビョーク)とは...

ビョーク - Wikipedia

中学生の時からbjork大好きで、ずっとアルバムもビデオも追ってきた私からすると、これは「超インスパイアされているし、リスペクトというより追随という感じなのと、cocoonといえばbjorkのアルバムヴェスパタインに入ってる名曲の名前で、名前まで同じじゃん。。。。」と思いました。

f:id:mayachang:20150902124925j:plain

via 長嶋りかこにもパクリ盗作疑惑!プロフィールと作品画像を比較検証 | 星々の煌めき

www.youtube.com

bjorkのcoccon

f:id:mayachang:20150902125754p:plain

↑ 「chara cocoon bjork」の画像検索結果

まあ、charabjorkの作品全く見てないなんてことあるのかな?っていう疑問もあり、見てたとしたらこれはさすがにちょっとアレなのではないかと思いそうなのに何故パスしたんだ、とか、そもそもタイトルがwwwとかいう疑問点は解消されませんが、ともかくこのアルバムデザインと画像はbjorkcocoonに似てるし、劣化版に見える、と私は思いました。

 

同じことを思ったのは、ワンピースと真島ヒロさんの対比ですけどね。

f:id:mayachang:20150902132649j:plain

↑これ、一瞬「あれ...?ワンピース?」と思いませんか?

大昔ですが、私は真島さんがデビューしたときのポスター見て「あれえ、尾田さん画風劣化した?」と思ったら真島さんだったんですよね。

ワンピースのファンってわけじゃないんですが、そのあまりに明らかな画風の似てっぷりに、当時漫画家を目指してて自分の画風を作り上げる難しさを感じてたし、必ず毎号ジャンプ買って、尾田さんのデビュー読み切りから読んでいる身としてなんとなく悔しく、「すぐ消えるだろう」と思ったら未だに人気漫画家で、完全に予想は外れたんですけどね...

まあしかし、この例ではよく尾田さんも真島さんも鳥山明先生のドラゴンボールに憧れて育ったから、ある程度画風が似るのは当然だ、みたいな擁護説もあったりするんですけど、このお二人に限らず、70年~80年生まれの少年漫画家で鳥山先生に感動しなかった人なんて逆に少ないだろうし、ナルトだってなんだって、誰かしらからインスパイアを受けないクリエイターなんていないわけです。

 

ここに来て思ったのは、佐野さん問題と高嶋さん問題と森本さん問題は質が違うなってこと。違和感は、質が違うのに同系列に並べられてるなってこと。

 

今回の佐野さん騒動で「パクリ」と言われて糾弾されているものって、実は4種類あると思うんですよね。

倫理観の問題とプライドの問題と練習不足の問題勉強不足の問題。

 

①人の素材を許可なしに利用する。

これは倫理観の問題ですよね。今回の「素材パクリ」については部下がやったと発表されてますが、佐野さんのところはそんなに人数の多くない事務所ですから、それが別にやってもいいこと、というような空気があったかもしれないし、それはわからないです。会社として公にした仕事に問題があれば責任者が責任をとるべきなのはそうだとは思います。

・・・例:サントリーのトートバッグとか空港の写真とか

(が、素材として使っていいものならフォントもだけど使ってなんの問題もない)

 

②バレなきゃいいと思って、あるいはバレても大丈夫と思って他人の作風を真似る

これは、プライドの問題だと思うんです。自分ないし自社の看板をあげて作品を発表するってことは「これは自分の作品ですよ」ということだから、それが他人の作品を真似たものであるってことは、クリエーターとしてはとても恥ずかしいことだと思うんですけど、それをしちゃうっていうのは、プロとしてプライドがないってことだと思います。まあ、これも倫理観の問題とも言えるかもですね。・・・例:特定しずらい

 

③そんなつもりじゃなかったがインスパイア元の作品に似てしまう。

これは、練習不足の問題ですよね。あらゆる創作は、何かからインスパイアされてると思いますが、その上で看板しょって発表するプロは、それを独自に昇華する義務を持つと思うんです。それが、練習不足で「誰が見てもアレの劣化版だな」と思うような状態で発表されてしまったとしたら、それは練習不足だと思うんですよね。

③についてはインスパイアはされてるし、それを自分でも認識してるけど、自分の作品として世に出せる程練った、と本人は思ってるけど外から見たらそうでもなかった、ということもあると思います。・・・例:真島さん・長嶋さんとかが②じゃなかったらコレかな?

 

④作ったものが実は誰かの作品に似ていた。

これは、勉強不足の問題かなと思うんです。これだけ世の中に創作物がありますから、作ったものが以前誰かが作ったものに似る、ということは当然あると思います。ただ、②・③を無意識下でやっている可能性はありますよね。勉強をしてきた人は、恐らく様々な創作物の背景や体系を学び、その創作物の裏にあるものを認識した上で二次創作するんだと思いますし、それであればそれはもう新しいクリエイションだと思うんですけど、いままでの創作物の数って、言ってみれば世界中の浜辺の砂ほどあるはずなので、公的に発表する際は「何かに似てないかな?」っていうのをチェックする役目があるといいですよね。・・・例:特定しずらい

 

①は正直、佐野さんが感知してるかはわからないです。このような問題になったから超盗人猛々しい、って言われてますけど、多分他のクリエーターもやってると思う。

他のクリエーターがやってるからいいって訳じゃないけど、佐野事務所だけが糾弾される問題ではないかと思う。(みんな部下がやってたことで佐野さんが知らなかったとしたら、それは、有名デザイナーが名前で仕事受けてるのに忙しすぎて実仕事を部下が全部やることになっている業界のあり方と、それで良しとしてた佐野さんの問題だと思うけど、それってパクリそのものとはちょっと問題が違うかと思う。)

 

②は、一番いやだなあと思うもの。これって、パクリ元が有名だとパクリ先が「パクリ

って言われるけど、パクリ先のが有名だったりするとパクったことが見つけられずにパクリ先がオリジナルになっちゃうこともあるんだろうな、と思う。

③・④についても結構世の中によくあることだと思う。①と②は努力でやめられるけど、③と④は努力にも限界があるかなあって気がする。

 

そんだから、それらの問題を一緒にすべきじゃないと思うんですよね。

で、どうして佐野さん事件ってこんなにヒートアップしたのか、を考えてみました。

 

一つには嫉妬があると思う。

やっぱり、電通博報堂っていうのは、いわゆる「業界」の最高峰で、憧れたからって入れるものでもない。マーケティング業界に長く身を置いてたって到底接触できないようなクライアントや仕事があそこにはある。

キラキラしているし、給料も高そうだ。

そこ出身で、独立してオフィスまでもっていて、国を代表するような仕事をバンバンしているひとって、普通に考えて「羨ましいひと」だ。

そんなひとに対する「憧れ」と、「嫉妬」の混じったようなものを持ってるひとは多いと思う。

 

ただ、芸能人や政治家のようなわかりやすい公人とは違って、普通はそういう「市井の羨ましいひと」って、一般人があまり触れる機会もなければ攻撃出来ることもない。

でも、正直言うと、一番「ウマイ」ポジションって、そういう「市井の羨ましいひと」だ。

「ちょっとリッチで、見栄もはれて。輝かしい仕事に、楽しそうな交友関係。それれでいながら人気稼業の公人と違って、あからさまな批判にさらされることも少ない」というようなひとたちに対しての世間的な「面白くない」気分っていうのはあると思う。

 

さっき森本千絵さんのところでも少し出した気持ち、「才能もあってキラキラしてて、それが認められもして充実してる」ひとに対しての嫉妬心だ。

 

それが、今回その象徴みたいなひとを攻撃する機会ができた。

 

にちゃんねるの捜査班の結束力

そういう感じはしてたんだけど、この一連の「パクリ」騒動を掻き立てたのは、私の認識している限りでは2ちゃんねる住民たちだ。

それで、このまとめに書かれているこの文章を読んだときに、ああ、って思ったことはあった。

 

佐野研二郎のパクリ作品まとめ画像がヤバイwwサントリーはトートバッグ一部賞品取り下げ!2ch「本名は朴尊簸の在日韓国人って本当?」「五輪エンブレムデザイン盗作も会見で認めろ」 : NEWSまとめもりー|2chまとめブログ

434:
まぁお前らの特定する能力はすごいと思う。
あっという間に特定しちゃうもんな。

 

444:
ネット掲示板は、数千人、数万人が見ているから、類似性を突き止めるには適している。
トヨタの宣伝にレッドリボン軍のマークとか、
普通は気づかないが、
ドラゴンボールオタなら気付くもんな。

 

509:
やっぱ俺らの影響力ってかなりのもんだよな
嘘だらけの新聞、テレビ、雑誌
嘘もあるけど、真実も隠れてるネット(主に2ch
大学教授だったり、政府関係者、FBI、芸能人
様々な人が本音で書き込みをしてる
これ程貴重なソースって中々ないよ
鬼女板の捜査力は警察以上だし、
俺らのDQNに対する制裁は国外追放も可能だし、
不買運動なんてさせたらその企業が潰れるレベル
俺はお前らが誇らしいよ
匿名の集合体としては世界一だと思う

 

これは、潜在的にあった「うまいことやってるやつらがうまい思いをしている」っていう世間のなんとはない不満が、攻撃対象を見つけて、一体になって起こした運動だって。

あと「高い金もらってんのにたいした仕事してねーんじゃねーの」とか、「そもそもエンブレム気に食わねーよ」とか。

その気持ちはわからなくもないし、ネットが発達したことによって以前だったら闇に葬られていたような不正が明るみになって正されたりすることはあると思う。

 

でも、この匿名性っていうのが怖いと思う。

自分たちは安全な匿名性の中にいて、ちょっと攻撃したいひとを、自分は安全なところから好きなだけやっつけられるってなったら、そりゃあ安全だし楽だし楽しいと思う。

その上今回の騒動は史上初・にちゃんがNHKのニュースソースになった、みたいな影響が目に見えて出たから、世の中動かしているみたいで興奮したりもしたと思う。

 

でも、匿名だから、自分のいうことに責任もたなくても書くことができるし、論旨のズレも平気で容認しちゃう。

 

パクリって一括りにしてるけど、にちゃんで散々指摘された「パクリ」は①であって、②③④に関しては②は確信犯だからアレかもしれないけど特定できてないし、③④を責めすぎてしまったらこの世の新規コンテンツなんて9割以上なくなっちゃうんじゃないかと思う。

小池一夫さんて方がこんなツイートをしてたけど、本当にそれ。

森本千絵さんもそうだけど、当初「擁護」に回った界隈のひとたちはみんな槍玉にあげられ、あることないこと暴きたてられ、それで公的なツイートなりコメントなりをやめたら「逃げた」と言われた。

 

それじゃあ、そりゃあ、誰もなにも言いたくなくなるだろうさ。

①~④どれであったって、大金もらって晴れやかなステージ立ってんなら、どんな突っ込み入ったって大丈夫なようにしときな、って気持ちなのかな、と思うけど、だったらそう言えばいいじゃんね。

ちゃんとした言論ならいいと思うけど、何かいおうとしたら匿名の大勢VSある名前をもった個人 って図式になって殺されちゃいそう、っていうもの怖いし、批判するにしても味噌もクソもいっしょくたにすべきじゃないと思います。

 

オリンピックにまつわるコンペに不正とか癒着があるならそれはそれで問題にすればいいし、

有名クリエーターの部下任せが常習化しているデザイン界の問題があるならそれはそれで問題にすればいいし、

許可が必要な他人の素材を勝手に使っちゃう傾向があったなら、それはそれで倫理観不足で問題にすればいいかと思うけど、

全部いっしょくたにして個人攻撃するのは違うでしょうと思います。

 

隠れ蓑来て集団人身攻撃すること、その攻撃の仁義のなさに反対するひとたちは「その他の不正をも擁護する擁護者」と攻撃されるのも怖いけど、そういうのも含めてネットのいろんな追求の論理のズレとかヒトとしての倫理性のなさに公的な言及も入らずにエンブレム取り下げまで行っちゃったのも匿名性と同じくらい怖いというかやな気がする。

 

大きな子供が暴れて、良くないことしてるのに、大人は怒れもしなかったみたいな。瑕疵って、是正してもらうために努力してもいいけど、瑕疵をしでかしたからって相手を殺してもいいってことじゃない。

あと、ある人が言ってたAということで嘘があったから、BもCもDも嘘ってことではない。そこらへんを混同したままにしていいってことにしちゃうと、公正ではない。

ついでに今回のケースの場合って、エンブレムをこれでよしとした人たちがあるわけだから、どーせ糾弾するならそれもとことんまで追求しないといけないはずなのに、攻撃の種が見つけやすかった対象だけ追求し続けるのもカッコ悪い。

 

くそも味噌も一緒にして自分たちがそれを糾弾したい理由には目もくれず、稚拙な正義感で匿名性に隠れて自分たちは全く傷つかずにひとを攻撃できることにノリノリになって攻撃しまくったネット勢に、大人たちがあんまり怒れないでいたことで、色々ないいもんも萎縮するのもやだ。

 

佐野さん、あそこまでの攻撃を受けて良く持ちこたえられたと思う。

今回の件、ことがオリンピックだったので、2020年までなんとなく思い出される可能性があってかわいそうだけど、そして私ごときがいうことではないけど、人は別に何回でもやり直せると思います。

 

ネットもテレビもまーったく見なくても愉快に暮らしていくことはできるし、ふつーーーに超お金持ちになることもなんだってできるし、別に、ネットとかテレビとかが全てじゃないから。

 

昨年のサムラゴーチさんとかののちゃんとかとは違う点は、私は佐野さんの作品は全然好きじゃないけど、きっと才能があるのだろうし仕事の実績もたくさんあるんだから、きっとやり直せるさ、と、片隅からエールを送る、いまはそんな気持ちです....