人の性格は変えることができるのか?そして、愛について。
先日、オックスフォードのエレーヌ・フォックス教授による心と脳の白熱教室(Eテレ) を見ました。
内容を端的にまとめると、脳科学は人格を変えることができるのか、というテーマで、
悲観的な脳を楽観的な脳に変えることが出来るという脳科学の可能性を長年の研究から立証し、それを講義したものです。
なんで悲観的な人と楽観的な人がいるんだろう?
悲観的な人は楽観的な性格にはなれないんだろうか?
こういったことって非常に興味のあることだったので、とても惹かれて番組を見ました。
そして色々思ったことを書きます。
●目次
■悲観的なタイプ、楽観的なタイプって確かにあるよね
■セロトニン運搬遺伝子タイプが人の性格を決める?
■やはりセロトニン運搬遺伝子は「楽観性を生む遺伝子」なのかな?
■マイケル・J・フォックスとの出会いと驚くべき発見
■悲観的遺伝子の持主だからと言って悲観的になるわけではない。
■マイケルの楽観的志向を育んだもの
■ナルトとキングダム、漫画に見る「愛」の凄さ
■少しだけ自分のことも話す
■本当に長い文章の最後の短いまとめ
■悲観的なタイプ、楽観的なタイプって確かにあるよね
ちょうど数日前医師の友人と話していたところだったんですよね。
「物事を常時悲観的に捉える人っていうのがいるよね」という話で、これっていうのはセロトニン(幸福ホルモンとも言われたりする神経伝達物質)の分泌能力が関係しているのだろうか、ということを、精神科医をしているその友人に聞いてみたりしてたのです。
物事をいい悪いと判断するのは、人間の脳の仕業だ。
物事は、そこに「在る」だけではいい悪いもない。
それを、常に「悪い」とか、悲観的に考える癖のある人っていうのはいるように思えて、どうしてそういう人と、そうでない人がいるのか疑問だった。
内蔵の損傷が鬱的であったり、精神病的な症状と相関関係にあると聞いたことがある。
例えば肝臓疾患により鬱と非常に似た症状が出たり、腎臓疾患でイライラしやすくなるといったことだ。
東洋医学的見地から言うと、卵が先か鶏が先かの問題でもあるかもしれないが(つまり、肝臓や腎臓を悪くするような特定の感情生活を含めた生活の偏り、を生む性格が内臓疾患を呼び...と言ったこと)
私たちのこころは、ホルモンやビタミンや、さまざまな物質の体内のバランスによって変化するものだから、例えば特定の内臓が悪いのでアンモニアを分解しがたい、とか、セロトニンを分泌しづらい、とかいうのがあって、それが悲観的な人を悲観的にしたりするのかなあ...?なんてことを考えていたのだった。
■セロトニン運搬遺伝子タイプが人の性格を決める?
オックスフォード感情神経科学センターを率いるエレーヌ・フォックス教授が2009年に発表した論文は、「セロトニン運搬遺伝子」の型が楽観・悲観を決めるのではと示唆するもので、大変なセンセーションを巻き起こしました。
つまり、だとすれば、性格は生まれながらの遺伝子の型で決まってしまうのだろうか、という問いを世界に投げかけたからです。
研究でエレーヌ・フォックス教授は、脳内で感情や気分を安定させるはたらきをしているセロトニンに着目しました。
そして、このセロトニンのレベルを保つ「セロトニン運搬遺伝子」は、 人によって三つのタイプがあり、それが、楽観、悲観の性格を決めているのではないかという仮説をもって、このタイプと、その人が楽観的か悲観的かわかる認知バイアスとの関係を調べたのです。
認知バイアスとは、認知心理学や社会心理学の理論であり、ある対象を評価する際に、自分の利害や希望に沿った方向に考えが歪められたり、対象の目立ちやすい特徴に引きずられて、ほかの特徴についての評価が歪められる現象を指します。
で、認知バイアスというのは楽観的な画像(例:かわいい猫や犬など)と悲観的な画像(例:蛇や銃など)を見せた際に、どちらに先に注意を払うかによってわかるそうです。
結果として、セロトニンがより多く出るLL型を持っている人はポジティブな画像に引き寄せられ、発現量の低いSS型、およびSL型の人はネガティブな画像に引き寄せられたそうです。
■やはりセロトニン運搬遺伝子は「楽観性を生む遺伝子」なのかな?
この結果に世間はざわつきました。
元々もった遺伝子が、その人の認知のあり方に影響している可能性の提示だったからです。
■マイケル・J・フォックスとの出会いと驚くべき発見
この研究結果に興味を持ち、自ら連絡をとりフォックス教授との邂逅を果たしたのが、かのマイケル・J・フォックスです。
いまの若い方はもしかしたら知らない方もいらっしゃるかもしれないですが、1980年代に一世を風靡した近未来アクション映画『バックトゥザフューチャー』シリーズの主演を務めた才能ある俳優でした。
小さいとき見た映画の記憶と、そして、特徴的な名前から私の彼の名前を覚えてはいました。
しかし、彼は若くしてパーキンソン病と言われる重い病にかかり俳優を引退したと思っていました。(パーキンソン病を告白したニュースは知っていました)
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ところが彼は真摯に逃げることなく病と向き合い、逆境を逆手にとってパーキンソン患者を演じる俳優として、自身の名前を関する番組をもつほどの活躍を遂げていたそうなのです。
栄華の絶頂にあって、20代にしてパーキンソン病を患う...そのような、絶望の淵に立たされながら自分を信じ、世界を信じて復帰したマイケルは、驚くべき楽観性の持主だと言えそうです。
ところが、マイケルの遺伝子検査の結果は意外なものでした。
彼の遺伝子型は、悲観的なタイプに分類されるものだったのです。
■悲観的遺伝子の持主だからと言って悲観的になるわけではない。
この意外な発見により、研究は見直しが進みました。
「研究を進めたところ、わたしが“悲観型”と思っていた遺伝子は、ネガティブな環境だと悲観的に、ポジティブな環境だと楽観的に反応する“感受性”を強めるはたらきをしていたのです」
ここから、遺伝子に関して楽観型・悲観型とカテゴライズすることをやめて、番組中フォックス教授が使っていた言い回しをすると、前者は「セロトニン運搬遺伝子が長い」後者は「セロトニン運搬遺伝子が短い」ということができるそうです。
では後者のタイプは、必ずしも悲観的になるかというと、それはNOです。
例えば、不幸せな家庭で育ったセロトニン運搬遺伝子の短い子は、同じ条件下の長い型の子に比べ不幸を感じていることが多かったそうです。
しかし、幸せな家庭で育ったセロトニン運搬遺伝子の短い子は、特に悲観的であることはなくむしろ、非常な幸福を感じていた。
基本的なストレス耐性は前者の方が高いが、幸せも不幸も、深く感受する感受性は後者の方が高い。
また言い換えると、前者は良くも悪くも環境によって自分を変えることが難しいが、後者は環境によって柔軟に変化することができる、とも言えるそうです。
この発見のあと、エレーヌ教授はマイケルに、彼の幼少時代のインタビューをしました。
フォックス教授は、ふたたびマイケルに会って、その結果について話し合った。マイケルは少年時代、マンガを描いたりバンドをしたりして、保守的な家 の中では変わった子だと思われていた。しかし、彼の祖母だけは常にその才能を応援し、彼を支えてくれるような空気をつくっていたのだという。
「わたしの考えでは、幼少時にその環境に支えられていたことが、マイケルの遺伝子を最大限に生かして楽観脳を強くし、楽天的で、逆境でもあきらめない人生観につながったのではないでしょうか」
やはり性格は遺伝子だけで決まるわけではない。前向きな環境を経験すれば、感情をコントロールできて逆境にへこたれない性格をはぐくめるのだ。
楽観的な人、悲観的な人がいるのはナゼ 脳科学が解き明かす人格形成の秘密|World Voiceプレミアム|ダイヤモンド・オンライン
フォックス教授はこのようにも語っていました。
「ただ一人でも、本当に愛して、大切にしてくれる人をもった経験があれば、どんな逆境からでも人は立ち上げる力をもつことができるようになります。
祖母の愛が、マイケルの強く、楽観的な性質を育ててくれたのでしょう。
そして更に喜ぶべきことに、人間の脳は大人になっても変わっていくことができることが最近の研究ではわかっています。」
■大人になっても、脳は変わっていくことが出来る。
「私がまだ小さかったとき、脳はだいたい7歳くらいまでに成長を完了し、以後は成長しないと教えられていました。でも、現代ではそれは間違いであったことがわかっています。」
自身の実験でも、悲観的な大人がネガティブなものに注目してしまう偏りを、ポジティブに変えることに成功。英国BBCの科学番組で実験をキャスターに実践してみせたそうです。
これは、本当にうれしい宣言だなあ、と私は思いました。
■ナルトとキングダム、漫画に見る「愛」の凄さ
「ただ一人でも、本当に愛して、大切にしてくれる人をもった経験があれば、どんな逆境からでも人は立ち上げる力をもつことができるようになります。
この話を聞いたときに、私は最近読んだナルトとキングダムのことを思い出しました。
ナルトは私は17巻とかまでしか読んでませんが(この前のボルト大当たり記念24時間無料キャンペーンで読めるだけ読んだだけなので)17巻まで読んだ感想しては、早く全巻を買いたいということです。
ナルトは、九尾という妖怪を封じられた嬰児として生まれた子で、両親もなく、九尾を宿しているゆえに小さいときから差別やいじめを受けてきました。
ナルトはまっすぐな子ですけど、やっぱり、あんまり言われのない差別やいじめを受けて、少し心がすねてしまっていたところに、九尾を狙うものに命を狙われます。
それを救ってくれたのは、ナルトの卒業試験を、「要件を満たしてないから」パスさせなかったイルカ先生でした。(それは、彼を「特別扱い」してないからこそ、そうしていたんですけど)
皆に追い立てられ、信じていた身近の教員に命を狙われ、
「どうせ、イルカ先生も俺を裏切るのかな...」
そんなふうに思ってしまっていたナルトを、しかしイルカ先生は命をかけて守ってくれるのです。
この命懸けでナルトを守り本当の「愛」をもってナルトを一個の人間として認めてくれたイルカ先生のおかげで、ナルトは、まっすぐで、積極的で、愛のある子に育つことができました。
同じ妖怪である一尾を宿し、ナルトと同じように迫害されて育ちながら、ナルトにとってのイルカ先生のような人に出会うことができず、心が冷たくなった結果、何も感じず人を殺せる心ない殺人マシーンのようになってしまった我愛羅という少年に出会ったとき、その相手の行いを憎むのではなく、『我愛羅はかわいそうだ。俺にとってのイルカ先生に会うことができず、たった一人で...』と、彼のために泣きながら、救いにいくことができるナルトに育ったのです。
もう、話それちゃいますけど、まだ「愛ってあるかも...」と信じてた我愛羅の小さいときが、可愛くてまた泣けるのです。。
持論があるのですが、一世を風靡しそれだけでなく本当に長く、本当に多くの人に愛される漫画の一番大きな共通点は、「作者のマンガ家先生の精神が健全で愛があること」だとおもいます。
知性とか、洒脱とか、興奮とか、そういうのも良いものですが、結局人が一番心動かされるのは愛だと思うし、「この作者の描く世界は信じられる」と思えるから、超人気漫画はみんなに支持されると思うのです。
そしてキングダムの政です。
キングダムは今や飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を伸ばしてる中国の始皇帝が中華を統一するまでを描く大河漫画ですが、その第二の主人公であり、後の始皇帝となるのが政という少年です。
政にはナルトにも劣らない熾烈な出自があります。
秦国王族の実子として生まれながら、父はとても皇帝につける見込みはなく、踊り子を母として生まれた彼は、先の戦争でその兵士40万人を秦国が皆殺しにしたためにこの上ない憎悪を秦国に抱く趙国に人質として預けられました。
そんな政の幼い日々は、犬にも劣るような虐待と、どん底の貧困と、実の母にすら殺しかけられるような、この世の地獄としか言い得ないようなものでした。
そのような日々を物心ついたときから送っていた政は、あまりの体験に全ての感覚を閉ざしてしまい、味覚・痛覚・嗅覚が全く無く、他人を一切信じられない荒んだ性格でした。
その政のこころを生き返らせ、前人未到の中華統一に向けて力強く、不退転の精神力をもって進む賢王として立たせたのは、奇跡的に父が皇帝になり、その第一子として趙国から秦国に逃げ帰る道程を救ってくれた闇商人紫夏です。
彼女は女だてらに趙国でも名高い商人頭でしたが、元々孤児で惨めに生きていたときに、先代の商人頭である養父が彼女とその仲間を救い出してくれ、食べさせてくれ、教育してくれ、愛を与えてくれて、荒んだ心を回復させることができました。
そして、その養父の遺志(もらったものは次世代の子たちに送って上げれば良い)を貫き、紫夏は、政を秦まで無事に送りとどける責務を果たし、その途中で政を守るために死ぬのです。
「あなたは生まれの不運により
およそ王族が歩まぬ道を歩まされた‥‥
しかし
逆に言えばあなたほどつらい経験をして
王になる者は他にいません
だから きっと
あなたは誰よりも偉大な王になれます」
この言葉を残して。
この紫夏の愛のおかげで、政はこころと、痛みと、全ての感覚を取り戻すことができました。それどころか、天下をまっすぐに進み、その道程にどのようなことがあってもひるまず、前を見る真の王にさせてくれたのです。
彼女と過ごした時間はほんの数日だったのに、でも、初めて人に抱きしめられるという経験を政にくれた紫夏の愛は、政の苦痛に満ちた幼少期を救い、更に死するまでの一生涯の性質を変えてくれたのです。
本当に、これは美しい真実です。
生涯に、たった一人でも、本当に愛して認めてくれる人がいたら、人はそれだけでそれまでどんなにひどい目に合って心が死んでいたとしても、温かい血の通った心を取り戻して、強く生きていかれるってことは。
■少しだけ自分のことも話す
実は、私も非常に心の死んだ10代を送っていました。
親はいましたし、経済的にはなんの問題もなかったし、目に見える虐待をされたとかいうわけでもなかったのですが、私は「本当に愛を知らない」と思って過ごしていました。
もはや昔のことですが、二十歳で死ぬと思ってましたし、カバン一つで家を出てホームレスなどをしながら生きていました。
どうしてそんなことができたのかわからないくらい、それなりには劣悪な環境でしたが、死ぬと思っていたし、どんなことでもできると思っていました。
その後飛び込んだ水商売の世界では世間知らずの18歳の小娘でしたし、割に言いように扱われたり騙されたりもありまして、益々心は冷え切っていたのですが、そこで一人の人と会い、その後5年をともにしました。
その人が、愛を見せてくれたおかげで、いまの私があります。
私はその人のおかげで、一度生き返ったようなものです。
私は拗ねた子供だったんでしょうね。
ロマンティストで、小さいときから本や漫画の虫で、愛ってものに憧れてたし、「いつか...自分にもあるのかな...」とおもったけど、家族ですら得られないなら私にはそんなもの来るわけないんだ、と思って、拗ねきってたんだとおもいます。
ただ、その人との出会いで私はこの世に本当に愛というものがあることを信じることができたし、その後どんなことがあっても、その思いが、私の人生を支え続けてくれました。
私は昔から悲観主義的で、ちょっとしたことでも心が沈み、「なぜ私はこんなに不幸感受度が高く生まれてしまったのだろう...」と思ってたものでした。
でも、きっとそれを説明すると、私はセロトニン運搬遺伝子が短いタイプだったのじゃないかなーと思ってます。
だから、人生のあちこちで本当に傷つきもしたけど、良いことがあったら心から喜んだし、深く幸せを感じたんだろうな、と。
■本当に長い文章の最後の短いまとめ
本当に長く書いてしまいましたが最後に、
結局、だから愛だろうな、とおもいます。
愛があれば、セロトニン運搬遺伝子の長短とか、出自とかにかかわらず、人は世界を信じたり人を愛したりして生きてけるようになるってことはもう自明なんだから、そしてそれが本当の愛であれば「いくら構ったって、そんな人は変わらないよ」なんてことは、ないと思っています。
人間の本質は愛で、憎しみっていうのは、愛がまざまざに裏切られたりして変形してしまったものだって言う。でも、そこに愛の光をあてることで、人は本来の本質を取り戻すことが出来るんだよね。
それって、とても素敵なことだとおもいます。
最後の最後に、この記事で取り上げたエレーヌ・フォックス教授の動画と本を紹介して終わります。